7.52026
医療法人とは?制度の仕組みや個人開業との違い

医療法人とは
医療法人とは、医療法に基づいて設立される法人です。
病院、医師・歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設、介護医療院などを開設することを目的として、都道府県知事の認可を受けて設立されます。
個人で診療所を開設している院長先生が医療法人化する場合、単に税務上の事業形態を変更するのではありません。
個人とは別の法人格を持つ医療法人を設立し、その医療法人が診療所の新しい開設者となります。
そのため、医療法人化では次のような手続きが必要です。
- 医療法人設立認可申請
- 医療法人の設立登記
- 個人診療所の廃止
- 医療法人による診療所開設許可申請・開設届
- 保険医療機関の指定に関する手続き
- 税務・社会保険・契約関係の切替え
株式会社のように登記だけで設立できる法人ではなく、医療法と都道府県の運用に従って設立する必要がある点が大きな特徴です。
医療法人制度の目的
医療法人制度は、医療機関の経営に法人格を与え、医療の継続性と安定性を確保するために設けられた制度です。
個人診療所では、原則として院長先生個人が診療所の開設者となり、診療所の資産、契約、借入れなども院長先生個人に帰属します。
一方、医療法人では、医療法人が診療所の開設者となり、法人名義で財産を保有し、契約を締結します。
これにより、診療所の経営主体を院長先生個人から切り離し、組織として医療事業を継続するための基盤を整えることができます。
ただし、医療法人には高い公共性が求められるため、事業内容、組織運営、利益の取扱いなどについて、株式会社とは異なる制約があります。
医療法人は非営利法人です
医療法人は、医療法上の非営利法人です。
ここでいう「非営利」とは、診療によって利益を得てはいけないという意味ではありません。
医療法人も、医療機器の購入、職員の給与、施設の維持、将来の事業継続などのために、適正な利益を確保する必要があります。
医療法人の非営利性で重要なのは、剰余金の配当が禁止されていることです。
医療法人に生じた利益を、株式会社の配当のように社員や設立者へ分配することはできません。法人に残った利益は、医療法人の運営や医療提供体制の維持・向上のために使用します。
また、医療法人の財産は院長先生個人の財産ではありません。
院長先生が設立者や理事長であっても、法人名義の預金を生活費や個人的な買物に自由に使用することはできません。
役員報酬を受け取ることはできます
医療法人の理事長や理事が、その職務に応じた役員報酬を受け取ることは可能です。
したがって、「非営利法人だから役員報酬を受け取れない」ということではありません。
ただし、法人の収益や職務内容に比べて不相当に高額な役員報酬や、実態のない報酬は、税務上・法人運営上の問題となる可能性があります。
医療法人の主な種類
医療法人は、組織の成り立ちによって「社団医療法人」と「財団医療法人」に分かれます。
社団医療法人
社団医療法人は、人の集まりを基礎として設立される医療法人です。
一般的な診療所の医療法人化では、社団医療法人が選択されます。
社団医療法人には、法人の構成員である「社員」が置かれ、社員総会が法人の重要事項を決定します。
財団医療法人
財団医療法人は、寄附された財産を基礎として設立される医療法人です。
財団医療法人では、社団医療法人の定款に相当する「寄附行為」を定め、評議員や評議員会などを設置して運営します。
一般的な個人診療所の法人化で財団医療法人が選択されることは多くありません。
医療法人の「社員」は従業員ではありません
社団医療法人の「社員」は、一般企業でいう従業員とは意味が異なります。
医療法人の社員とは、社員総会の構成員として、法人の重要事項について議決権を持つ人です。
主な決議事項には、次のようなものがあります。
- 理事・監事の選任と解任
- 定款の変更
- 決算の承認
- 役員報酬の決定
- 社員の入社・退社
- 医療法人の解散
- その他、定款で定める重要事項
原則として社員1人につき1個の議決権を持ち、拠出した金額の多寡によって議決権が増えるものではありません。
そのため、親族や知人へ形式的に社員就任を依頼することには注意が必要です。
社員は法人の意思決定に実際に参加する立場であり、名義だけを借りるものではありません。
社員の必要人数や構成に関する行政実務は都道府県によって異なる場合があります。例えば東京都の設立実務では、原則として3人以上の社員を確保する取扱いとなっています。
医療法人の役員と運営組織
社団医療法人は、主に次の機関によって運営されます。
社員総会
社員総会は、社団医療法人の最高意思決定機関です。
社員が出席し、役員の選任、定款変更、決算などの重要事項を決議します。
理事
理事は、医療法人の業務執行に関する意思決定に参加します。
医療法上、原則として理事3人以上を置く必要があります。ただし、一定の場合には都道府県知事の認可を受けて、理事数を減らせることがあります。
医療法人が開設する診療所などの管理者は、原則として理事に就任します。
理事長
理事長は、医療法人を代表し、法人の業務を執行します。
原則として、医師または歯科医師である理事の中から選出します。医師・歯科医師以外の者を理事長とする場合には、都道府県知事の認可が必要です。
理事会
理事会は、すべての理事によって構成され、医療法人の業務執行に関する事項を決定します。
理事長が単独ですべてを決定するのではなく、医療法や定款に従って理事会を開催し、必要な決議を行います。
監事
監事は、医療法人の業務や財産の状況、理事の職務執行などを監査します。
医療法上、原則として監事1人以上を置く必要があります。
監事は、医療法人の理事や従業員を兼ねることができません。また、独立した立場で監査できる人を選任する必要があります。
「一人医師医療法人」とは
「一人医師医療法人」という呼び方がありますが、一人だけで運営組織を構成できる医療法人という意味ではありません。
常勤の医師または歯科医師が1人の診療所でも、一定の要件を満たせば医療法人を設立できるという意味で使われてきた呼称です。
実際の設立には、原則として次の構成員が必要になります。
- 社員
- 理事
- 理事長
- 監事
院長先生1人だけで、社員総会・理事会・監査まで行えるわけではありません。
役員や社員の候補者を確保できるかどうかは、医療法人設立を検討する際の重要な確認事項です。
現在設立できるのは「持分のない医療法人」です
平成19年4月1日以降、新たに持分の定めのある医療法人を設立することはできません。
現在新設される社団医療法人は、持分の定めのない医療法人です。
持分とは
医療法人の持分とは、定款の定めに基づき、出資者が法人に対して持つ財産的な権利をいいます。
かつて設立された持分のある医療法人では、退社や解散時に出資持分に応じた財産の払戻しを請求できる場合があります。
しかし、現在新設する持分のない医療法人では、設立者や社員が法人財産について出資割合に応じた払戻請求権を持つことはありません。
解散時の残余財産についても、定款の定めに従い、国、地方公共団体、持分のない他の医療法人などへ帰属することになります。
基金制度を利用できる場合があります
持分のない社団医療法人では、設立時の資金を確保するために基金制度を採用することがあります。
基金は、一定の条件のもとで法人から拠出者へ返還できる制度ですが、株式会社の出資持分や株式とは異なります。
基金の返還には、定款の規定や社員総会の決議、代替基金の計上などが必要です。
個人診療所と医療法人の主な違い
| 比較項目 | 個人診療所 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 開設者 | 医師・歯科医師個人 | 医療法人 |
| 経営主体 | 院長先生個人 | 院長先生とは別の法人 |
| 設立手続き | 保健所等への開設手続き | 設立認可、登記、診療所開設手続き等 |
| 意思決定 | 院長先生が判断 | 社員総会・理事会等で決定 |
| 財産の帰属 | 院長先生個人 | 医療法人 |
| 利益の取扱い | 個人の事業所得 | 法人に帰属し、剰余金の配当は禁止 |
| 社会保険 | 人数等によって取扱いが異なる | 原則として強制適用事業所 |
| 毎年の行政手続き | 法人特有の事業報告はない | 事業報告書等・経営情報等報告など |
| 分院展開 | 制度上の制約が大きい | 認可等を受けて複数施設を運営できる場合がある |
| 事業承継 | 廃止・新規開設等が基本 | 法人を存続させた承継を検討できる |
| 解散・廃業 | 比較的柔軟 | 解散認可、清算、登記等が必要 |
どちらが優れているということではなく、診療所の収益、将来計画、分院展開、事業承継、スタッフ体制などに応じて選択する必要があります。
医療法人を設立するための主な要件
医療法人設立認可申請では、主に次の事項が審査されます。
人員・組織に関する要件
- 社員を確保できること
- 理事・監事などの役員を確保できること
- 診療所の管理者が理事に就任すること
- 役員が実際に法人運営へ参加できること
- 監事の独立性が確保されていること
財産に関する要件
- 設立後の運営に必要な財産が確保されていること
- 拠出する財産や負債の内容が明確であること
- 医療機器、預金、賃借権などの引継ぎが可能であること
- 運転資金が確保されていること
施設に関する要件
- 診療所の土地・建物を継続して使用できること
- 賃貸借契約を医療法人へ引き継げること
- 医療機器や設備を医療法人が使用できること
- 開設許可に必要な施設基準を満たしていること
事業計画・収支に関する要件
- 設立後の事業計画が具体的であること
- 予算に合理的な根拠があること
- 継続的かつ安定した運営が見込まれること
- 役員報酬などが適正に設定されていること
具体的な審査基準、必要書類、社員数の取扱い、申請時期は都道府県によって異なる場合があります。
医療法人は認可だけでは成立しません
医療法人設立の一般的な流れは次のとおりです。
- 法人化の検討・専門家への相談
- 社員・役員などの候補者決定
- 必要資料の収集
- 定款・事業計画書・予算書などの作成
- 都道府県との事前協議
- 医療法人設立認可申請
- 設立認可書の交付
- 法務局での医療法人設立登記
- 都道府県への設立登記完了届
- 保健所・地方厚生局などへの手続き
都道府県知事の設立認可を受けただけでは、医療法人は成立しません。
設立登記を行った日に医療法人が成立します。その後、医療法人による診療所の開設手続きを行います。
医療法人は設立後も継続的な運営が必要です
医療法人には、設立後も次のような手続きがあります。
- 社員総会・理事会の開催
- 議事録の作成・保存
- 毎年の事業報告書等の提出
- 経営情報等報告
- 役員変更届
- 理事長変更などに伴う変更登記
- 登記後の都道府県への届出
- 定款変更認可申請・定款変更届
- 保健所・地方厚生局への各種届出
医療法人は、設立認可を取得することだけが目的ではありません。
設立後も医療法と定款に従い、適切に法人を運営できる体制を整えることが重要です。
医療法人化が適しているかは個別に判断します
医療法人制度を理解しても、すべての診療所が法人化すべきという結論にはなりません。
実際には、次のような要素を踏まえて判断します。
- 診療所の収益状況
- 社会保険料を含めた法人化後の負担
- 分院展開の予定
- 後継者の有無
- スタッフの採用計画
- 院長先生の年齢や今後の診療方針
- 法人運営に必要な社員・役員の確保
- 将来の解散・廃業の可能性
税務上の効果については税理士による試算が必要です。
行政手続きだけでなく、税務、社会保険、登記、事業承継なども含めて総合的に検討しましょう。
詳しい判断ポイントについては、次の記事で解説しています。
よくあるご質問
医療法人と株式会社は何が違いますか?
医療法人は、医療法に基づく非営利法人です。
株式会社のように株式を発行したり、利益を株主へ配当したりすることはできません。また、医療法人の設立には、都道府県知事の認可と設立登記が必要です。
院長1人でも医療法人を設立できますか?
常勤医師・歯科医師が1人の診療所でも、医療法人の設立を申請することは可能です。
ただし、院長先生1人だけで法人組織を構成できるという意味ではありません。社員、理事、監事などの候補者を確保する必要があります。
家族を社員や役員にできますか?
家族が社員や役員になること自体が一律に禁止されているわけではありません。
ただし、社員や役員は法人運営に実際に参加する必要があります。また、監事については独立性が求められるため、役員の近親者などは行政実務上認められない場合があります。
都道府県の運用も確認したうえで構成を検討する必要があります。
医療法人化すれば節税になりますか?
必ず節税になるわけではありません。
法人税、所得税、役員報酬、社会保険料、設立費用、毎年の維持費などを含めて比較する必要があります。税務上の判断は税理士へ相談することをおすすめします。
関連記事
医療法人設立について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
- 医療法人化のメリット・デメリット
- 医療法人設立の流れ
- 医療法人設立のスケジュール
- 医療法人設立に必要な書類
- 医療法人設立費用
- 医療法人設立後に必要な手続き
- 一般社団法人による診療所開設|非営利性審査と令和8年制度改正
医療法人設立をご検討中の院長先生へ
医療法人設立は、単に申請書を提出するだけの手続きではありません。
社員・役員構成、財産や負債の引継ぎ、診療所の賃貸借契約、設立後の収支計画などを整理し、定款、事業計画書、予算書などの内容に整合性を持たせる必要があります。
行政書士なかじま法務事務所では、医療業界で30年以上培った経験を活かし、東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県を中心に、医療法人設立認可申請をサポートしています。
法人化のご相談から設立スケジュールの作成、申請書類の作成、行政庁との事前協議、認可申請まで対応いたします。
設立登記については司法書士、税務上の判断については税理士と連携し、それぞれの専門分野を確認しながら進めます。
「医療法人の仕組みから説明してほしい」「自院が法人化に適しているか整理したい」という段階でも、お気軽にご相談ください。
東京都台東区で「お困りごとを解決する」行政書士をしております。
医療法人設立サポート、遺言・相続などのご相談を承っております!




