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医療法人化のメリット・デメリット|法人化を検討する前に知っておきたいポイント

医療法人化は「節税」だけで判断しないことが大切です

医療法人化を検討する院長先生から、「法人化すると税金が安くなりますか?」というご相談をいただくことがあります。

医療法人になると、個人事業とは異なる税制が適用されるため、役員報酬や退職金などを含めた設計によっては、税務上のメリットが生じる場合があります。

しかし、医療法人化には、設立費用や社会保険料の負担、毎年の届出、法人財産を自由に使えなくなることなどのデメリットもあります。

そのため、医療法人化は単年度の税額だけで判断するのではなく、次の点を総合的に検討することが重要です。

  • 今後の診療所経営
  • 院長先生の所得と生活設計
  • ご家族や後継者の状況
  • 分院展開の予定
  • スタッフの採用計画
  • 将来の事業承継や廃業
  • 法人化後の事務負担

この記事では、医療法人化の主なメリットとデメリット、法人化を検討する際の判断ポイントを解説します。


医療法人化の主なメリット

1.税務面で有利になる可能性がある

個人で診療所を経営している場合、診療所から生じた所得には、原則として所得税が課されます。

医療法人化すると、法人の所得には法人税等が課され、院長先生が医療法人から受け取る役員報酬には所得税が課されます。

役員報酬には給与所得控除が適用されるため、診療所の利益や役員報酬の設定によっては、個人経営を続ける場合より税負担を抑えられる可能性があります。

また、一定の要件を満たす役員退職金を支給できることも、長期的な資金計画を立てるうえでの選択肢になります。

ただし、医療法人化すれば必ず節税になるわけではありません。

法人には、法人住民税、社会保険料の事業主負担、税理士報酬、各種手続きの費用なども発生します。役員報酬の額や支給方法についても、税法上の取扱いを考慮する必要があります。

医療法人化前と法人化後の税金・社会保険料・維持費を含めて、税理士に試算してもらうことが重要です。

2.診療所の経営主体と院長個人を分けられる

個人診療所では、院長先生個人が診療所の開設者であり、事業の権利義務も基本的に院長先生個人に帰属します。

医療法人化すると、医療法人が診療所の開設者となり、院長先生個人とは別の法人格を持つ経営主体になります。

これにより、診療所の運営を個人の一代限りの事業ではなく、組織として継続していくための体制を整えやすくなります。

一方で、医療法人の預金や資産は院長先生個人の財産ではありません。法人のお金を個人的な支出に自由に使うことはできないため、法人と個人の会計を明確に分ける必要があります。

3.事業承継の準備を進めやすくなる

将来的にご家族や第三者へ診療所を引き継ぐ場合、医療法人では、社員・理事・理事長などの構成を変更することで、法人を存続させながら経営体制を引き継げる可能性があります。

個人診療所のように、院長先生個人の廃止と後継者による新規開設を行う方法とは異なる承継方法を検討できます。

ただし、医療法人化すれば簡単に事業承継できるという意味ではありません。

後継者が医師または歯科医師であるか、診療所の管理者要件を満たすか、社員・役員構成をどのように変更するか、金融機関や賃貸人との契約をどう扱うかなど、事前に整理すべき事項があります。

また、持分のない医療法人では、株式会社の株式を売却するような方法で法人を譲渡することはできません。事業承継は、税理士、司法書士、行政書士などと連携して計画的に進める必要があります。

4.分院展開を検討できる

個人の医師・歯科医師が複数の診療所を運営することには、開設者や管理者に関する制度上の制約があります。

医療法人では、医療法人を開設者として複数の診療所を運営する体制を検討できます。

そのため、将来的に分院展開を予定している場合は、医療法人化が有力な選択肢になります。

ただし、分院を自由に開設できるわけではありません。

一般的には、次のような手続きや準備が必要です。

  • 定款変更認可申請
  • 新たな診療所の開設許可申請
  • 診療所開設届
  • 保険医療機関の指定申請
  • 分院を管理する医師・歯科医師の確保
  • 事業計画・予算・人員体制の整備

分院計画がある場合は、物件契約や工事を進める前に、都道府県や保健所へ手続きの順序を確認することが重要です。

5.人材採用や福利厚生の整備につながる可能性がある

医療法人は法人事業所となるため、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。

スタッフにとって社会保険への加入は、採用条件や福利厚生の面でメリットとなることがあります。

また、就業規則、退職金制度、各種手当などを整備し、個人経営から組織的な運営へ移行するきっかけにもなります。

ただし、法人化しただけで採用力や定着率が自動的に高まるわけではありません。労働条件、職場環境、教育体制などを実際に整備することが必要です。

6.対外的な説明がしやすくなる場合がある

医療法人化により、法人名義の決算書、事業計画、就業規則などを整備することで、金融機関や取引先に対して経営状況を説明しやすくなる場合があります。

ただし、「医療法人である」というだけで、融資や取引が有利になるとは限りません。

金融機関は、診療実績、収益性、借入状況、院長先生の経歴、事業計画などを総合的に判断します。融資に際して院長先生個人の保証を求められることもあります。

したがって、「医療法人化すれば信用が必ず高まる」と断定することはできません。


医療法人化の主なデメリット

1.設立認可申請に時間と費用がかかる

医療法人は、株式会社のように登記だけで設立できる法人ではありません。

都道府県知事の認可を受けた後、法務局で設立登記を行うことで成立します。

認可申請では、一般的に次のような書類を作成・提出します。

  • 定款
  • 設立趣意書
  • 事業計画書
  • 予算書
  • 財産目録
  • 役員・社員に関する書類
  • 診療所や賃貸借契約に関する書類

都道府県との事前協議や補正対応も必要となるため、設立までには一定の期間がかかります。

行政書士、司法書士、税理士などへ依頼する場合は、それぞれの専門家報酬も必要です。

2.社会保険料の法人負担が発生する

医療法人は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。

加入要件を満たす役員やスタッフについて、医療法人が保険料の一部を負担します。

スタッフにとっては福利厚生上のメリットになりますが、医療法人にとっては継続的な人件費の増加につながります。

個人診療所のときに社会保険へ加入していなかった場合は、法人化後の負担が大きく増える可能性があるため、事前に試算しておく必要があります。

3.法人のお金を個人的に使えなくなる

医療法人の収入や預金、医療機器などは、医療法人に帰属する財産です。

院長先生が設立した医療法人であっても、法人のお金を生活費や個人的な買物に自由に使うことはできません。

院長先生が法人から金銭を受け取る場合は、原則として次のような適正な根拠が必要です。

  • 役員報酬
  • 経費の精算
  • 法人への貸付金の返済
  • 適正な契約に基づく支払い
  • 役員退職金

法人と個人の資金を混同すると、税務上の問題だけでなく、医療法人の非営利性や適正運営の観点からも問題になる可能性があります。

4.剰余金を配当できない

医療法では、医療法人による剰余金の配当が禁止されています。

株式会社のように、法人に生じた利益を出資者や社員へ配当することはできません。

法人に残った利益は、医療機器の購入、施設整備、職員の処遇改善、将来の運転資金など、医療法人の運営のために使用することになります。

役員報酬を支給することはできますが、職務内容や法人の収益に照らして不相当に高額な報酬を設定することは、税務上・法人運営上の問題となる可能性があります。

5.毎年の届出と法人運営が必要になる

医療法人は設立後も、医療法や定款に基づいて運営しなければなりません。

主な手続きには次のようなものがあります。

  • 社員総会・理事会の開催
  • 議事録の作成・保存
  • 毎年の事業報告書等の提出
  • 経営情報等報告
  • 役員の任期管理と役員変更届
  • 登記事項に変更がある場合の変更登記
  • 登記後の都道府県への届出
  • 定款を変更する場合の認可申請または届出

同じ役員が続けて就任する場合でも、任期満了に伴う重任手続きが必要です。

個人経営と比べて、継続的な事務負担と専門家費用が増えることを想定しておく必要があります。

6.事業内容や重要な変更に制約がある

医療法人は、定款に定められた本来業務・附帯業務などの範囲内で事業を行います。

診療所の追加、廃止、移転、法人名称の変更、附帯業務の開始などについては、事前に定款変更認可が必要になる場合があります。

院長先生の判断だけで直ちに実行できるとは限らず、行政庁との事前協議や認可を受けるための期間を考慮する必要があります。

7.解散や法人財産の取扱いに制約がある

現在、新たに設立する社団医療法人は、原則として持分の定めのない医療法人です。

持分の定めのない医療法人では、解散時の残余財産を、設立者や社員が当然に受け取れるわけではありません。定款の規定に従い、国、地方公共団体、他の持分のない医療法人などへ帰属することになります。

また、医療法人を解散する場合には、解散認可申請、清算、診療所の廃止、保健所・地方厚生局・法務局などへの手続きが必要です。

「法人化して合わなければ、すぐ個人経営に戻せばよい」と簡単に考えることはできません。


医療法人化を検討する価値があるケース

次のようなケースでは、医療法人化を具体的に検討する価値があります。

  • 診療所の利益が安定し、税理士の試算で法人化の効果が見込まれる
  • 将来的に分院を開設したい
  • 後継者への事業承継を予定している
  • 院長個人とは別の経営主体として診療所を継続させたい
  • スタッフの増員や組織化を進めたい
  • 役員退職金を含めた長期的な資金計画を立てたい
  • 医療法人として継続的な手続きや管理を行う体制を整えられる

ただし、これらに該当しても、直ちに法人化すべきとは限りません。

税務上の効果、社会保険料、設立費用、将来の経営計画などを具体的な数字で比較したうえで判断する必要があります。


個人経営を継続する選択肢もあります

次のような場合は、医療法人化を急がず、個人経営を継続することも選択肢になります。

  • 開業直後で収益がまだ安定していない
  • 将来の診療方針や承継方針が決まっていない
  • 分院展開や大幅な事業拡大を予定していない
  • 社会保険料や法人維持費の負担が大きい
  • 数年以内の閉院を予定している
  • 法人運営に必要な事務体制を整えることが難しい

法人化しないことが消極的な選択とは限りません。

現状の規模や将来計画によっては、個人経営の方が柔軟で、事務負担も少ない場合があります。


医療法人化を判断するためのチェック項目

医療法人化を検討する際は、少なくとも次の事項を確認しましょう。

税務・資金面

  • 個人経営と法人経営の税額を比較したか
  • 社会保険料の法人負担を試算したか
  • 設立費用と毎年の維持費を確認したか
  • 役員報酬をどの程度に設定するか
  • 個人所有の医療機器や車両、借入金をどう扱うか

経営面

  • 分院展開を予定しているか
  • スタッフを増員する予定があるか
  • 診療所を何年間継続する予定か
  • 後継者候補がいるか
  • 法人化によって実現したい目的が明確になっているか

手続き・運営面

  • 社員と役員の候補者を確保できるか
  • 毎年の社員総会・理事会を適切に運営できるか
  • 事業報告書等や役員変更届を期限内に提出できるか
  • 法人と個人の会計を明確に分けられるか
  • 将来の解散や事業承継まで検討しているか

専門家ごとの役割

医療法人化の判断では、一人の専門家だけでなく、複数の専門家との連携が必要になる場合があります。

税理士

  • 個人経営と法人経営の税額比較
  • 役員報酬の設定
  • 社会保険料を含めた収支試算
  • 法人化後の会計・税務申告

行政書士

  • 医療法人設立認可申請
  • 都道府県との事前協議
  • 定款、事業計画書、予算書などの作成
  • 保健所・地方厚生局に関する手続きの整理
  • 設立後の届出や定款変更手続き

司法書士

  • 医療法人の設立登記
  • 理事長変更などの変更登記
  • 不動産登記が必要な場合の対応

実務上は、それぞれの専門家が情報を共有し、税務・認可・登記・診療所開設のスケジュールを合わせて進めることが重要です。


よくあるご質問

医療法人化すれば必ず節税になりますか?

必ず節税になるわけではありません。

診療所の利益、院長先生の所得、ご家族の状況、役員報酬、社会保険料、法人維持費などによって結果は異なります。税理士による具体的な試算が必要です。

医療法人のお金を院長個人の生活費に使えますか?

医療法人の財産は院長先生個人の財産ではありません。

生活費については、原則として医療法人から支給される役員報酬など、適正な方法で受け取った個人財産から支出します。

法人化すれば融資を受けやすくなりますか?

必ず融資を受けやすくなるとは限りません。

金融機関は、法人格だけでなく、診療実績、収支、借入状況、事業計画などを審査します。院長先生個人の保証を求められる場合もあります。

一度医療法人化した後、個人診療所へ戻せますか?

医療法人の解散や診療所の開設者変更には、認可・登記・清算・保健所・地方厚生局などの複数の手続きが必要です。

簡単に元へ戻せる制度ではないため、設立前に将来の事業計画まで検討しておくことが重要です。


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