7.32026
クリニック開業・移転の行政手続き|保健所・厚生局の流れと注意点

- クリニックの開業日は、行政手続きから逆算して決めましょう
- クリニック開業では2つの行政機関への手続きが中心です
- 個人開設と法人開設では保健所の手続きが異なります
- 一般的なクリニック開業スケジュール
- STEP1 開設者と開設形態を決める
- STEP2 物件契約・内装工事の前に保健所へ相談する
- STEP3 法人開設の場合は開設許可を受ける
- STEP4 開設後に診療所開設届を提出する
- STEP5 地方厚生局へ保険医療機関指定申請を行う
- STEP6 必要な施設基準届を確認する
- 令和8年からの「外来医師過多区域」の手続きにも注意
- クリニックの「移転」は単なる住所変更ではありません
- クリニック開業・移転で注意したい8つのポイント
- 行政手続き以外にも確認が必要です
- クリニック開業・移転の行政手続きをサポートします
- 関連記事
- 参考資料
クリニックの開業日は、行政手続きから逆算して決めましょう
クリニックや歯科診療所を開業するためには、物件を借り、内装工事や医療機器の準備をするだけでは足りません。
保健所に対する事前相談、開設許可申請または開設届、地方厚生局に対する保険医療機関指定申請など、複数の行政手続きを進める必要があります。
また、個人の医師・歯科医師が開設する場合と、医療法人などの法人が開設する場合では、保健所で行う手続きが異なります。
手続きの順序や期限を誤ると、診療所そのものは開設できても、予定していた日から保険診療を開始できない可能性があります。
この記事では、クリニックの新規開業・移転に必要となる主な行政手続きと、一般的なスケジュール、準備段階で注意したいポイントについて解説します。
クリニック開業では2つの行政機関への手続きが中心です
クリニックの開業では、主に次の2つの行政機関への手続きが必要です。
保健所への手続き
保健所では、診療所の構造設備、開設者、管理者、診療科目などについて確認を受けます。
個人開設か法人開設かによって、必要となる手続きも異なります。
地方厚生局への手続き
健康保険を使った診療を行うためには、地方厚生局へ保険医療機関指定申請を行います。
保健所で診療所の開設手続きを済ませただけでは、原則として保険診療を開始することはできません。
さらに、算定を予定している診療報酬によっては、別途、施設基準に関する届出も必要です。
つまり、クリニック開業では、
- 診療所を適法に開設するための手続き
- 保険診療を行うための手続き
- 必要な診療報酬を算定するための手続き
を分けて考えることが重要です。
個人開設と法人開設では保健所の手続きが異なります
一般的な無床診療所の場合、個人の医師・歯科医師による開設と、医療法人などの法人による開設には、次のような違いがあります。
| 開設形態 | 開設前の手続き | 開設後の手続き |
|---|---|---|
| 個人の医師・歯科医師 | 原則として開設許可は不要。ただし事前相談を推奨 | 開設後10日以内に開設届 |
| 医療法人等の法人 | 開設前に診療所開設許可申請 | 開設許可後に開設し、開設後10日以内に開設届 |
個人開設では、原則として診療所の開設後10日以内に開設届を提出します。
ただし、「届出だから、開設してから相談すればよい」ということではありません。
事務所の構造や診療所名称、管理者、エックス線装置などについて確認が必要になるため、内装工事を始める前に、管轄保健所へ相談することをおすすめします。
一方、医療法人や一般社団法人などの法人が診療所を開設する場合は、開設前に保健所の開設許可を受けなければなりません。
法人設立や定款変更、登記、診療所開設許可の順序も関係するため、個人開設より長い準備期間が必要になることがあります。
一般的なクリニック開業スケジュール
実際の期間は、開設地域、診療科目、入院設備の有無、開設者、行政庁の審査状況などによって異なります。
次の表は、無床診療所を新規に開設する場合の一般的な目安です。
| 時期の目安 | 主な準備・手続き |
|---|---|
| 開業予定日の6か月以上前 | 開設者・開設場所・診療内容の検討、外来医師過多区域等への該当確認 |
| 4~6か月前 | 保健所との事前相談、物件・設計図面・診療所名称の確認 |
| 2~4か月前 | 内装計画の確定、法人の場合は開設許可申請の準備 |
| 1~2か月前 | 保健所提出書類、厚生局の保険医療機関指定申請書類の準備 |
| 開設前 | 法人の場合は開設許可、必要に応じた検査・確認 |
| 開設後10日以内 | 保健所へ診療所開設届を提出 |
| 所定の期限まで | 地方厚生局へ保険医療機関指定申請 |
| 保険診療開始前後 | 必要な施設基準届、オンライン資格確認等の手続き |
これはあくまで目安です。
法人設立、医療法人の定款変更、一般社団法人に対する非営利性の審査、入院設備の設置などが関係する場合には、さらに早い段階からの準備が必要です。
STEP1 開設者と開設形態を決める
最初に確認したいのが、「誰が診療所の開設者になるのか」という点です。
主な開設形態には、次のようなものがあります。
- 医師・歯科医師個人による開設
- 医療法人による開設
- 一般社団法人などによる開設
開設形態によって、保健所での手続き、必要書類、審査内容、開設後の運営義務が異なります。
特に一般社団法人による診療所開設では、法人の非営利性や運営体制などについて、以前より慎重な確認が行われるようになっています。
単に一般社団法人を設立すれば診療所を開設できるとは限らないため、法人設立や物件契約の前に、開設予定地を管轄する行政庁へ確認することが重要です。
詳しくは、次の記事で解説しています。
一般社団法人による診療所開設|非営利性の審査と令和8年の制度改正
STEP2 物件契約・内装工事の前に保健所へ相談する
クリニック開業で特に重要なのが、保健所との事前相談です。
保健所では、一般的に次のような事項を確認します。
- 診療所の名称
- 開設者と管理者
- 診療科目
- 診療所の所在地
- 建物の用途や使用状況
- 診察室、待合室、処置室等の配置
- 職員や患者の動線
- エックス線診療室の構造
- 開設予定日
- 個人開設か法人開設か
管轄地域や診療内容によって、確認項目や必要資料は異なります。
事前相談をしないまま賃貸借契約や内装工事を進めると、後から構造設備の変更を求められる可能性があります。
設計図面を変更すれば、工事費用や開業スケジュールにも影響します。
そのため、できれば物件契約前に相談し、少なくとも内装工事に着手する前には、図面を持参して保健所の確認を受けることをおすすめします。
STEP3 法人開設の場合は開設許可を受ける
医療法人などの法人が診療所を開設する場合には、原則として開設前に診療所開設許可を受けます。
開設許可申請では、一般的に次のような書類を準備します。
- 診療所開設許可申請書
- 法人の定款または寄附行為
- 法人の登記事項証明書
- 敷地・建物の平面図
- 周辺案内図
- 建物を使用する権原に関する書類
- 管理者に関する書類
- 医師・歯科医師免許証の写し
- 開設後の運営に関する資料
必要書類は、開設者や管轄保健所によって異なります。
また、医療法人の定款に新しい診療所が記載されていない場合には、診療所開設許可申請の前に、定款変更認可申請が必要になることがあります。
開設許可と医療法人の手続きを別々に考えるのではなく、全体の順序を整理することが重要です。
STEP4 開設後に診療所開設届を提出する
個人開設の場合も法人開設の場合も、診療所を開設した後は、原則として10日以内に管轄保健所へ開設届を提出します。
法人の場合は、先に開設許可を受け、その後、実際に診療所を開設してから開設届を提出します。
開設届には、一般的に次のような資料を添付します。
- 管理者の医師・歯科医師免許証の写し
- 臨床研修修了登録証等の写し
- 診療所の平面図
- 周辺案内図
- 賃貸借契約書等
- 従事する医師・歯科医師に関する書類
- 診療日・診療時間に関する資料
提出部数や原本確認の方法なども申請先によって異なります。
地方厚生局への保険医療機関指定申請では、保健所へ提出した開設届の副本等を求められることがあるため、その後の手続きも考慮して準備しておきましょう。
STEP5 地方厚生局へ保険医療機関指定申請を行う
健康保険を使った診療を行うには、診療所の開設手続きとは別に、地方厚生局から保険医療機関の指定を受ける必要があります。
関東地方では、関東信越厚生局の各都県事務所等へ申請します。
保険医療機関指定申請には、受付期限があります。
期限や審査日程は都県によって異なり、希望する指定日から逆算して申請しなければなりません。
提出が期限に間に合わない場合、希望していた日から保険診療を開始できない可能性があります。
特に注意したいのは、
保健所上の診療所開設日と、厚生局上の保険医療機関指定日は同じとは限らない
という点です。
予定している保険診療開始日から逆算し、保健所への開設届と厚生局への指定申請が間に合うように日程を組む必要があります。
また、保険医療機関指定申請とは別に、オンライン資格確認の導入準備も必要です。
システム事業者との調整などに時間を要することがあるため、直前になってから準備するのではなく、早めに確認しましょう。
STEP6 必要な施設基準届を確認する
診療報酬の中には、施設基準を満たし、地方厚生局へ届出を行わなければ算定できないものがあります。
必要となる届出は、診療科目、人員配置、医療機器、診療体制などによって異なります。
例えば、診療内容によっては、
- 基本診療料に関する施設基準
- 特掲診療料に関する施設基準
- 在宅医療に関する届出
- 医療機器の共同利用等に関する届出
などの確認が必要になります。
保険医療機関の指定を受けたからといって、予定している診療報酬をすべて自動的に算定できるわけではありません。
開業後に「予定していた点数を算定できない」ということがないよう、開業前に必要な施設基準を洗い出しておくことが大切です。
令和8年からの「外来医師過多区域」の手続きにも注意
令和8年4月から、都道府県が指定する外来医師過多区域において、無床診療所を新たに開設し、保険医療機関の指定を受けようとする場合には、原則として開設予定日の6か月前に都道府県へ届出を行う制度が始まりました。
対象となる区域では、地域で不足している外来医療機能を担うよう要請を受ける場合があります。
届出をせずに準備を進めると、開業予定日の見直しが必要になる可能性もあります。
制度の適用は、各都道府県による区域の指定や施行状況によって異なります。
クリニックの開設場所を決める際には、予定地が対象区域に該当するか、都道府県の最新情報を確認することが必要です。
クリニックの「移転」は単なる住所変更ではありません
既存のクリニックを移転する場合、「所在地の変更届を出せばよい」と思われることがあります。
しかし、診療所の移転は、原則として現在の診療所を廃止し、新しい所在地で診療所を開設する手続きになります。
一般的には、次のような手続きを確認します。
- 現在の診療所の廃止届
- 新しい所在地での開設許可申請または開設届
- エックス線装置等に関する手続き
- 保険医療機関の指定に関する手続き
- 施設基準の届出
- 公費負担医療等に関する手続き
- 医療法人の場合は定款変更等
移転前後の診療所に継続性がある場合、保険医療機関の指定について特別な取扱いを受けられることがあります。
ただし、令和8年9月から遡及指定に関する取扱いが変更されており、すべての移転で当然に遡及指定が認められるわけではありません。
移転日を先に決めるのではなく、保健所と地方厚生局の双方に、事前に相談することが重要です。
クリニック開業・移転で注意したい8つのポイント
1.物件契約を先に進めてしまう
物件を契約した後に、構造や使用条件の問題が判明すると、計画変更や追加工事が必要になることがあります。
可能であれば契約前に、少なくとも内装工事前には保健所へ相談しましょう。
2.個人開設と法人開設の手続きを混同する
個人開設は原則として開設届、法人開設は開設前の許可申請が必要です。
法人設立直後に開設する場合には、登記や定款の内容も確認する必要があります。
3.開設日と保険診療開始日を同じものと考える
保健所で開設手続きを済ませても、厚生局の指定を受けるまでは原則として保険診療を行えません。
2つの日付を分けて管理することが大切です。
4.厚生局の受付期限を確認していない
保険医療機関指定申請の受付期限は、申請先や希望指定日によって異なります。
開業日が決まってから確認するのではなく、早い段階で最新の日程を確認しましょう。
5.施設基準届の準備が後回しになる
予定している診療報酬を算定するために、どの届出が必要かを事前に整理しておく必要があります。
医療機器や人員配置の計画にも影響することがあります。
6.医療法人の定款変更が間に合わない
医療法人が新しい診療所を開設・移転する場合、定款変更認可が必要になることがあります。
都道府県の審査期間を考慮し、早めに準備しましょう。
7.移転を単なる変更届と考えてしまう
移転では、旧診療所の廃止と新診療所の開設に加え、保険医療機関指定や施設基準の手続きも関係します。
休診期間を生じさせないためには、手続き全体の調整が必要です。
8.新しい制度や行政運用を確認していない
外来医師過多区域における事前届出など、クリニック開業に関する制度は変更されています。
過去に開業したクリニックと同じ進め方が、そのまま使えるとは限りません。
行政手続き以外にも確認が必要です
クリニック開業では、保健所・地方厚生局以外にも、診療内容や設備によって次のような手続きが関係することがあります。
- エックス線装置の設置に関する届出
- 麻薬施用者免許等
- 公費負担医療の指定申請
- 労働保険・社会保険関係の手続き
- 消防関係の確認
- 税務署等への届出
- 医療広告に関する確認
すべてのクリニックに同じ手続きが必要になるわけではありません。
診療科目、設備、職員体制、開設者などを確認したうえで、必要な手続きを洗い出すことが大切です。
クリニック開業・移転の行政手続きをサポートします
行政書士なかじま法務事務所では、個人診療所・医療法人の診療所の新規開設や移転について、行政手続きをサポートしております。
主なサポート内容は次のとおりです。
- 開業予定日から逆算した手続きスケジュールの作成
- 保健所との事前相談
- 診療所開設許可申請
- 診療所開設届・廃止届
- 地方厚生局への保険医療機関指定申請
- 施設基準届の確認・提出
- 関係行政機関との調整
- 開設後に必要となる手続きのご案内
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参考資料
※必要な手続き、提出書類、申請期限は、開設地域、開設者、診療科目、病床の有無などによって異なります。実際の開業・移転にあたっては、管轄保健所・地方厚生局等の最新情報をご確認ください。
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