お役立ちコラム
11.302023
医療法人設立のメリット・デメリットとは?節税・事業承継で後悔しないポイント

クリニック経営者の皆様、「法人化すると節税になるらしい」「事業を拡大しやすいと聞いた」といった理由で医療法人設立に関心をお持ちではありませんか?
個人経営から医療法人へ移行することは、税金面や事業展開において多くのメリットが期待できる一方で、運営上の負担増や注意すべき点も存在します。安易な判断はせず、ご自身のクリニックの状況や将来設計に合わせて、最適なタイミングを見極めることが重要です。
この記事では、行政書士の視点から、医療法人設立におけるメリット・デメリット、そして重要な「持分」の問題について、分かりやすく解説します。
1. 医療法人設立のメリット
医療法人化には、主に以下のメリットが挙げられます。
(1)節税効果
個人経営の場合、売上から経費を差し引いた利益(所得)の全額に所得税・住民税が課税されます。所得が増えるほど税率が高くなる累進課税のため、高額所得者ほど負担が重くなります(所得税・住民税合わせて最高税率55%)。
一方、医療法人を設立すると、理事長(院長)は法人から役員報酬を受け取る形になります。
- 役員報酬への給与所得控除: 役員報酬は給与所得となり、給与所得控除が適用されるため、課税対象額を抑えられます。
- 法人税率の適用: 法人の利益には法人税が課せられますが、その税率は個人の所得税・住民税の最高税率よりも低く設定されています(実効税率 約25%~34%程度 ※条件により変動)。所得が高額な場合、この税率差が大きな節税につながります。
- 所得分散: ご家族を役員に就任させ、適正な範囲で役員報酬を支払うことで、所得を分散し、世帯全体での税負担を軽減できる可能性があります。
- 退職金の活用: 役員に対して退職金を支給できます。退職金は税制上優遇されており、大きな節税効果が期待できます。個人事業主には退職金という概念はありません。
(2)事業展開の自由度向上
個人経営では、開設できるクリニックは原則として1箇所のみです。 医療法人化すれば、複数のクリニックや介護施設などを開設・運営することが可能になります。分院展開や多角化を図りたい場合に、法人化は必須の選択肢となります。
(3)事業承継の円滑化
お子様など、後継者にクリニックをスムーズに引き継ぎたい場合、医療法人化しておく方が有利です。 個人経営の場合、院長の死亡により事業用資産(不動産、医療機器など)が相続財産となり、遺産分割協議や相続税の問題が生じます。 医療法人であれば、法人が資産を所有しているため、理事長の交代や出資持分(後述)の承継手続きにより、比較的スムーズに事業を引き継ぐことが可能です(ただし、持分のない医療法人の場合は注意が必要です)。
2. 医療法人設立のデメリット
メリットがある一方で、以下のようなデメリットや注意点も存在します。
(1)設立・運営の手間とコスト
- 設立手続きの煩雑さ: 定款作成、設立認可申請、登記など、個人開業に比べて手続きが複雑で、時間と専門知識が必要です。
- 運営管理の複雑化:
- 書類作成・提出義務: 毎年の事業報告書等の提出が都道府県に対して義務付けられます。
- 会議体の運営: 社員総会や理事会を定期的に開催し、議事録を作成・保管する必要があります。
- 専門家への依頼費用: 設立手続きや税務・労務管理を行政書士、税理士、社会保険労務士などに依頼する場合、継続的な費用が発生します。
(2)社会保険への強制加入
常勤の役員・従業員がいる場合、健康保険・厚生年金保険への加入が義務付けられます。これまで国民健康保険・国民年金だった場合、法人負担分の保険料が発生するため、支出が増加します。
(3)剰余金配当の禁止
医療法人は非営利性が求められるため、株式会社のように利益を配当(剰余金配当)することができません。法人の利益は、役員報酬や内部留保、設備投資などに充てられます。
(4)事務負担の増加
経理処理や労務管理が個人経営よりも複雑になります。
3. 「持分あり」と「持分なし」医療法人について
医療法人を理解する上で重要なのが「持分」の有無です。
- 持分とは?: 出資額に応じて法人の財産に対する権利を持つことです。
- 現状: 2007年(平成19年)4月の医療法改正以降に設立できるのは**「持分なし」医療法人**のみです。それ以前は「持分あり」医療法人も設立可能でした。
- 「持分なし」の特徴:
- 出資者は、法人解散時に原則として残余財産の分配を受けられません(出資額の返還も基本的にはありません)。
- 法人が解散した場合、残余財産は国や地方公共団体、他の医療法人などに帰属します。
- 相続時に、出資持分に関する相続税の問題は発生しません。
- 基金拠出型医療法人: 現在主流の「持分なし」医療法人形態の一つです。設立時に「基金」として資金を提供し、一定の要件下で、拠出した基金の額までは返還を受けることが可能です。ただし、剰余金の分配はできません。
「持分なし」医療法人は、後継者がいない場合、最終的に法人の財産が国などに帰属してしまうため、「財産が没収される」ようなイメージを持たれることがあります。この点は、長期的な視点での検討が必要です。
4. まとめ:医療法人化は慎重な検討と計画が不可欠
医療法人化は、節税や事業拡大、承継において大きなメリットをもたらす可能性がある一方で、運営上の義務やコストが増加する側面もあります。
「持分なし」法人の特性も踏まえ、目先のメリットだけでなく、数年後、数十年後のクリニックの姿、そして次世代への承継まで見据えた上で、法人化の是非やタイミングを判断することが極めて重要です。
医療法人設立をご検討の際は、手続きの代行だけでなく、メリット・デメリットを十分に理解し、後悔のない選択をするためのサポートが必要です。
当事務所では、医療法人設立に関するご相談から、設立認可申請、設立後の運営サポートまで、幅広く対応しております。まずはお気軽にご相談ください。
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