お役立ちコラム
5.12025
夫婦の想いを形に。 夫婦相互 の公正証書遺言

「もし自分に何かあったら、残された妻(夫)はどうなるだろう…」 「大切な財産は、すべてパートナーに遺したい」
ご夫婦であれば、一度はこんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。特に、お子様がいらっしゃらないご夫婦や、先祖代々の土地など特定の財産をお持ちのご夫婦にとって、ご自身の亡き後の財産承継は切実な問題です。
こんにちは。行政書士なかじま法務事務所の中島英貴です。当事務所では、相続や遺言に関するご相談を数多くお受けしております。その中でも、近年ご相談が増えているのが、ご夫婦がお互いのために作成する遺言書、特に「公正証書遺言」によるものです。
今回は、なぜ夫婦相互の遺言書が注目されているのか、そしてなぜ「公正証書」で作成することが推奨されるのか、その理由と具体的な作成方法、注意点について、詳しく解説していきます。この記事が、皆様の未来への安心を築く一助となれば幸いです。
1. 「夫婦相互遺言」とは? なぜ必要?
夫婦相互遺言とは、文字通り、夫が妻を受取人に、妻が夫を受取人として、それぞれが作成する遺言書のことです。「自分が亡くなったら、全財産を配偶者に相続させる」といった内容が一般的です。
「夫婦なのだから、当然、全財産はパートナーが相続するのでは?」と思われるかもしれません。しかし、法律(民法)で定められた相続のルール(法定相続)は、必ずしもそうなるとは限りません。
- お子様がいる場合: 配偶者と子が相続人となり、相続分はそれぞれ2分の1ずつです。
- お子様がいない場合:
- ご両親(または祖父母)がご健在の場合:配偶者が3分の2、親(または祖父母)が3分の1を相続します。
- ご両親(または祖父母)が既に亡くなっている場合:配偶者が4分の3、兄弟姉妹(または甥姪)が4分の1を相続します。
つまり、お子様がいらっしゃらないご夫婦の場合、ご自身の財産のすべてを配偶者に遺すためには、遺言書が必要不可欠なのです。また、お子様がいる場合でも、「自宅不動産は確実に妻(夫)に相続させたい」「事業用の資産は経営に関わる長男に」など、特定の財産を特定の相続人に確実に承継させたい場合にも、遺言書は有効な手段となります。
夫婦相互遺言は、お互いを最も大切な相続人と考えるご夫婦の意思を明確にし、法的な効力を持たせるための重要な手続きと言えるでしょう。
2. なぜ「公正証書」で遺言を作成すべきなのか?
遺言書には、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。
- 自筆証書遺言: ご自身で全文、日付、氏名を自書し、押印して作成する遺言書です。手軽に作成できる反面、形式の不備で無効になったり、紛失・偽造・変造のリスクがあったり、相続開始後に家庭裁判所での「検認」という手続きが必要になったりします。
- 公正証書遺言: 公証役場で、公証人という法律の専門家が作成に関与し、証人2名以上の立会いのもとで作成される遺言書です。
夫婦相互遺言を作成する場合、私たちは**「公正証書遺言」**を選択することを強くお勧めしています。その理由は以下の通りです。
- 確実性と信頼性: 公証人が内容を確認し、法律的に有効な形式で作成するため、後々の紛争リスクを最小限に抑えられます。原本は公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配もありません。
- 検認手続きが不要: 相続開始後、家庭裁判所での検認手続きを経ずに、すぐに相続手続きを開始できます。これにより、残された配偶者の負担を大幅に軽減できます。
- 意思能力の証明: 作成時に公証人が遺言者の意思能力を確認するため、「認知症で判断能力がない状態で書かされたのでは?」といった疑義が生じにくくなります。
- 精神的な安心感: 公的な手続きを経て作成された遺言書は、残される配偶者にとって大きな安心材料となります。
もちろん、公正証書遺言の作成には費用がかかり、証人も必要となります。しかし、将来起こりうるトラブルや手続きの煩雑さを考えれば、そのメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
3. 夫婦相互に公正証書遺言を作成する際のポイントと注意点
ご夫婦で公正証書遺言を作成する場合、いくつか押さえておくべき重要なポイントがあります。
① それぞれ独立した遺言書を作成する 日本の民法では、二人以上の人が一枚の書面で共同して遺言をすることは禁止されています(共同遺言の禁止 民法975条)。そのため、ご夫婦であっても、夫の遺言書、妻の遺言書、それぞれ独立したものを2通作成する必要があります。ただし、内容は相互に関連するものですので、事前にしっかりと話し合い、できれば同じタイミングで作成手続きを進めるのが良いでしょう。
② 内容をしっかり検討する
- お互いを第一の相続人とする: 「私の財産のすべてを妻(夫)〇〇に相続させる」という基本的な内容を明確に記載します。
- 予備的遺言の重要性: ここが非常に重要なポイントです。もし、ご自身より先に配偶者が亡くなってしまった場合、財産を誰に相続させるかを決めておく必要があります。これを**「予備的遺言」と言います。 特にお子様がいないご夫婦**の場合、一方が亡くなり、その後もう一方も亡くなった場合、遺言がなければ最終的にその方の兄弟姉妹などが相続することになります。それで良いのか、それともご自身の兄弟姉妹、甥姪、お世話になった方、あるいは慈善団体などに遺したいのか。夫婦で話し合い、それぞれの遺言書に予備的な受取人を指定しておくことが、将来の無用な争いを防ぐために不可欠です。
- 付言事項の活用: 遺言書には、法的な効力はありませんが、「付言事項」としてご自身の想いを自由に書き記すことができます。「これまでありがとう」「残りの人生を穏やかに過ごしてください」「なぜこの遺言を書いたのか」といったメッセージを残すことで、遺言書がより温かいものとなり、相続人間の円満な関係維持にも繋がります。
③ 遺言執行者の指定 遺言の内容を実現するためには、不動産の名義変更、預貯金の解約・分配などの手続きが必要です。これらの手続きを行う人を**「遺言執行者」**と言います。遺言書で遺言執行者を指定しておくと、相続手続きがスムーズに進みます。残された配偶者を受遺者(財産を受け取る人)兼遺言執行者とすることも可能ですが、手続きが複雑な場合や、高齢で負担が大きい場合などは、信頼できる親族や、我々のような法律専門家(行政書士、弁護士、司法書士など)を指定しておくことを検討しましょう。
④ 証人の準備 公正証書遺言の作成には、証人2名の立会いが必要です。ただし、以下の人は証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人(遺言者の配偶者、子、親、兄弟姉妹など)およびその配偶者、直系血族
- 受遺者(遺言によって財産を受け取る人)およびその配偶者、直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
適当な証人が見つからない場合は、公証役場で紹介してもらうことも可能ですし、遺言作成を依頼する行政書士などが証人になることもできます(別途費用がかかる場合があります)。
⑤ 遺言の撤回・変更の可能性 遺言は、遺言者の最終意思を尊重するものですから、いつでも自由に撤回したり、新しい内容に書き換えたりすることができます(民法1022条)。これは、夫婦相互遺言であっても同じです。つまり、夫が妻に内緒で遺言内容を変更したり、撤回したりすることも法的には可能です(逆も然り)。後の遺言が前の遺言と内容的に抵触する場合は、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条)。 この点は、夫婦相互遺言を作成する上で理解しておくべき重要な側面であり、最終的にはお互いの信頼関係が基盤となります。
4. 公正証書遺言作成の流れと費用
【作成の流れ(一般的な例)】
- 相談・意思決定: まずはご夫婦で遺言内容についてよく話し合います。必要であれば、行政書士などの専門家に相談します。
- 必要書類の収集: 戸籍謄本、住民票、印鑑登録証明書、財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなど)を準備します。
- 文案作成: 行政書士などの専門家に依頼するか、ご自身で遺言書の文案を作成します。
- 公証人との打ち合わせ: 公証役場に連絡し、公証人と遺言内容、必要書類、作成日時などについて打ち合わせを行います。
- 公正証書遺言の作成: 予約した日時に、証人2名とともに公証役場へ行き、公証人が作成した遺言書の内容を確認し、署名・押印します。遺言者本人が病気などで公証役場へ行けない場合は、公証人に出張してもらうことも可能です。
- 原本の保管・謄本の受領: 作成された公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者には正本または謄本が交付されます。
【作成費用】 公正証書遺言の作成費用(公証人手数料)は、遺言書に記載される財産の価額によって法律で定められています。財産額が大きいほど、手数料も高くなります。また、証人を依頼する場合や、公証人に出張してもらう場合、行政書士などの専門家にサポートを依頼する場合には、別途費用が発生します。詳細については、公証役場や依頼する専門家にご確認ください。
5. まとめ:未来への安心のために、今できること
夫婦相互の公正証書遺言は、お互いを大切に想う気持ちを法的に確かな形にし、残された配偶者の生活を守り、将来の相続トラブルを未然に防ぐための、非常に有効な手段です。
「まだ元気だから大丈夫」「うちは財産なんてないから」と思わず、ご夫婦のどちらか一方に万が一のことがあった場合を想像してみてください。その時、残されたパートナーが安心して生活を続けられるように、そして無用な心配や負担をかけないように、元気なうちに準備を進めておくことが、最高の愛情表現なのかもしれません。
遺言書の作成は、決してネガティブなことではありません。むしろ、ご自身の人生を整理し、大切な人への想いを伝えるポジティブな行為です。
行政書士なかじま法務事務所では、ご夫婦それぞれの状況や想いに寄り添いながら、最適な遺言書の作成をサポートいたします。 「何から始めればいいかわからない」「費用はどれくらいかかるの?」「うちは少し複雑な状況で…」 どのようなことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料にて承っております。
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