お役立ちコラム
9.112024
遺産分割 でよくあるトラブルと解決策

相続が発生すると、亡くなった方(被相続人)の財産を誰がどのように引き継ぐのかを決める「遺産分割」が必要になります。遺言書があれば原則としてその内容に従いますが、遺言書がない場合や、遺言書の内容に納得できない相続人がいる場合は、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)が必要です。
しかし、この遺産分割協議は、時として相続人間の感情的な対立を生み、深刻なトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。「争続」という言葉があるように、円満だった家族関係が、相続をきっかけに崩れてしまうこともあります。
この記事では、遺産分割で起こりがちなトラブル事例とその具体的な解決策、そして手続きをスムーズに進めるためのポイントについて、相続手続きの専門家である行政書士が分かりやすく解説します。
1. 遺産分割とは?基本を理解しよう
まず、遺産分割の基本的な知識を確認しましょう。
遺産分割とは? 遺産分割とは、被相続人が残したプラスの財産(預貯金、不動産、株式など)とマイナスの財産(借金など)を、法律で定められた相続人(法定相続人)の間で具体的に分配する手続きのことです。
誰が相続人になるの?(法定相続人) 法律で相続人になれる人の範囲と順位が定められています。
- 常に相続人: 配偶者
- 第1順位: 子(子が亡くなっている場合は孫)
- 第2順位: 直系尊属(父母、祖父母)
- 第3順位: 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪) ※上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の人は相続人になれません。
遺産分割の主な方法 遺産分割には、主に以下の3つの方法があります。
- 協議分割: 最も一般的な方法です。相続人全員が話し合い、合意に基づいて遺産を分割します。合意内容は「遺産分割協議書」として書面に残します。
- 調停分割: 相続人間での話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所に調停を申し立てる方法です。調停委員が間に入り、合意を目指して話し合いを進めます。
- 審判分割: 調停でも合意に至らない場合に、家庭裁判所が各相続人の事情などを考慮し、法律に基づいて分割方法を決定(審判)する方法です。
2. 【事例で解説】遺産分割 でよくあるトラブルとその解決策
遺産分割協議が難航するケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。ここでは、よくあるトラブル事例と、行政書士としてのアドバイスを交えた解決策をご紹介します。
トラブル1:相続人の一人が話し合いに応じない・連絡が取れない
- 事例: 相続人の一人が遠方に住んでおり連絡が取りにくい、または感情的な理由で話し合いを拒否している。
- 解決策:
- 根気強く連絡を試みる: 手紙や電話などで、遺産分割協議の必要性を丁寧に説明し、参加を促します。
- 専門家への依頼: 弁護士など専門家に依頼し、代理人として連絡や交渉を行ってもらうことも有効です。法的な手続きや他の相続人の意向を伝えることで、相手の態度が変わる可能性があります。
- 不在者財産管理人選任の申立て(連絡不能の場合): 相続人が行方不明で連絡が全く取れない場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、その管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加します。
- 遺産分割調停・審判: どうしても協議に応じない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てることを検討します。
トラブル2:遺産の評価額で揉める(特に不動産)
- 事例: 相続財産に不動産が含まれる場合、その評価額について相続人間の意見が対立する。「もっと高く売れるはずだ」「固定資産税評価額は実勢価格と違う」など。
- 解決策:
- 客観的な評価額の取得: 公平性を保つため、複数の不動産会社に査定を依頼したり、不動産鑑定士に鑑定を依頼したりして、客観的な評価額を把握します。
- 評価方法の合意: どの評価額(固定資産税評価額、路線価、公示価格、実勢価格など)を基準にするか、相続人全員で事前に合意しておくことが重要です。
- 代償分割・換価分割の検討: 不動産を特定の相続人が取得する代わりに他の相続人にお金を支払う「代償分割」や、不動産を売却して現金化し、その代金を分配する「換価分割」も有効な解決策です。
トラブル3:特定の相続人が遺産を使い込んでいる疑いがある
- 事例: 被相続人の生前、同居していた相続人が、被相続人の預貯金を管理しており、その使途が不明瞭。他の相続人が使い込みを疑っている。
- 解決策:
- 資料の収集: まずは被相続人の預貯金通帳や取引履歴を取り寄せ、不自然な出金がないかを確認します。介護費用や生活費として正当な支出だった可能性もあるため、冷静な調査が必要です。
- 話し合い: 証拠に基づいて、該当する相続人と話し合いの場を持ちます。感情的にならず、事実確認を丁寧に行うことが重要です。
- 不当利得返還請求・遺産分割調停/審判: 話し合いで解決しない場合、使い込みが明らかであれば、法的に「不当利得返還請求」を行うことや、遺産分割調停・審判の中で主張することを検討します。証拠の確保が重要になるため、専門家への相談をおすすめします。
トラブル4:遺言書の内容に不満がある(遺留分侵害)
- 事例: 「長男に全財産を相続させる」という内容の遺言書が見つかった。他の相続人(次男や長女など)が、自分たちの取り分が全くないことに納得できない。
- 解決策:
- 遺留分の確認: 配偶者、子、直系尊属には、法律で最低限保障された相続分「遺留分」があります。遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求権を行使できます。
- 遺留分侵害額請求: 遺留分を侵害されている相続人は、財産を多く受け取った相続人に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。この請求は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行う必要があります。
- 専門家への相談: 遺留分の計算や請求手続きは複雑なため、行政書士や弁護士に相談することをおすすめします。
トラブル5:寄与分や特別受益で揉める
- 事例: 相続人の一人が、生前の被相続人の介護を長年献身的に行ってきたため、その貢献分(寄与分)を相続財産に上乗せしてほしいと主張。あるいは、別の相続人が被相続人から生前に多額の援助(住宅購入資金など)を受けており(特別受益)、その分を考慮して相続分を減らすべきだと主張。
- 解決策:
- 客観的な証拠の提示: 寄与分を主張する場合は、介護の期間や内容、それによって被相続人の財産維持・増加にどれだけ貢献したかを客観的な資料(介護記録、医療費の領収書など)で示す必要があります。特別受益を主張する場合も、贈与の事実を示す資料(振込履歴、契約書など)が必要です。
- 相続人間の合意形成: 寄与分や特別受益は、法律上の要件を満たすかどうかの判断が難しく、感情的な対立も招きやすい問題です。まずは相続人全員で冷静に話し合い、お互いの主張を尊重しながら合意点を探ることが重要です。
- 遺産分割調停・審判: 話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所の調停や審判で判断を求めることになります。
3. 遺産分割手続きの基本的な流れ
遺産分割は、一般的に以下の流れで進められます。
- 相続人の確定: 戸籍謄本等を取得し、誰が法定相続人になるのかを正確に調査・確定します。
- 遺言書の有無の確認: 遺言書がないか探します。公正証書遺言以外の場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。
- 相続財産の調査・確定: 被相続人のプラスの財産(預貯金、不動産、有価証券など)とマイナスの財産(借金、未払金など)をすべて調査し、財産目録を作成します。
- 遺産分割協議: 相続人全員で、誰がどの財産をどれだけ相続するかを話し合います。
- 遺産分割協議書の作成: 話し合いで合意した内容を書面にまとめ、相続人全員が署名・捺印(実印)します。
- 名義変更・解約手続き: 遺産分割協議書に基づき、不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、株式の名義変更などを行います。
- 相続税の申告・納付: 相続財産の総額が基礎控除額を超える場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告と納付が必要です。
4. 遺産分割で注意すべき重要なポイント
遺産分割を進める上で、特に注意しておきたい法律上の制度や権利があります。
- 遺留分: 前述の通り、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分です。遺言書があっても、遺留分を侵害することはできません。
- 配偶者居住権: 配偶者が、被相続人が亡くなった時に住んでいた建物に、無償で住み続けられる権利です(一定の要件あり)。遺産分割の対象となる財産権(負担付所有権)と、終身または一定期間の居住権(配偶者居住権)に分けて考えることができます。
- 相続放棄・限定承認: 相続財産に借金が多い場合など、相続開始を知った時から原則3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てることで、相続権そのものを放棄する「相続放棄」や、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」が可能です。
- 相続税: 相続財産の評価額によっては相続税がかかります。申告期限(10ヶ月)に遅れないよう注意が必要です。税理士への相談も検討しましょう。
- 遺産分割協議のやり直し: 原則として、有効に成立した遺産分割協議をやり直すことは困難です。ただし、相続人全員の合意があれば可能です。後々のトラブルを防ぐためにも、協議は慎重に行い、協議書の内容をしっかり確認しましょう。
5. 遺産分割を円満かつスムーズに進めるために
トラブルを未然に防ぎ、円満な遺産分割を実現するためには、以下の点が重要です。
- 早めの準備と情報共有: 相続が発生したら、なるべく早めに手続きに着手しましょう。相続人全員で被相続人の財産状況や意向(遺言書の有無など)について情報を共有することが、スムーズな話し合いの第一歩です。
- 冷静な話し合い: 相続人間の感情的なしこりが、協議を難航させる最大の要因です。お互いの立場や気持ちを尊重し、冷静に話し合うことを心がけましょう。
- 専門家の活用: 複雑な手続きや法律的な判断が必要な場面、相続人間の関係がこじれそうな場合は、早期に専門家へ相談することが賢明です。行政書士は、遺産分割協議書の作成や相続手続き全般のサポート、相続に関するご相談に対応できます。必要に応じて弁護士や税理士、司法書士などの専門家と連携して、ワンストップでサポートすることも可能です。
- 明確な遺産分割協議書の作成: 合意内容は、後で解釈の相違が生まれないよう、具体的かつ明確に記載します。「どの財産を」「誰が」「どのように取得するのか」を詳細に記し、全員が納得した上で署名・実印で捺印しましょう。
6. 遺産分割に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 遺産分割に期限はありますか? A1. 遺産分割協議自体には、法律上の明確な期限はありません。しかし、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月)や、不動産の相続登記の義務化(2024年4月1日から、相続を知った日から3年以内)などを考慮すると、早期に協議を完了させることが望ましいです。長期間放置すると、相続人が増えたり、財産の状況が変わったりして、さらに手続きが複雑になる可能性があります。
Q2. 遺産分割協議書は自分で作成できますか? A2. 相続人ご自身で作成することも可能です。ただし、法的に有効で、後々のトラブルを防ぐためには、財産の特定方法や記載内容に注意が必要です。特に不動産が含まれる場合や、分割方法が複雑な場合は、記載漏れや不備があると、後の手続き(相続登記や預貯金解約など)に支障が出ることがあります。不安な場合は、行政書士などの専門家に作成を依頼することをおすすめします。
Q3. 遺産分割で弁護士に依頼した方が良いのはどんな場合ですか? A3. 相続人間で既に対立が深刻化しており、話し合いでの解決が見込めない場合や、調停・審判といった裁判所の手続きが必要になった場合、あるいは交渉代理を依頼したい場合は、弁護士への相談・依頼が適しています。行政書士は、主に円満な合意形成を目指す段階での手続きサポートや書類作成を担います。
7. 遺産分割でお困りなら、行政書士にご相談ください
遺産分割は、法律知識だけでなく、相続人間の感情にも配慮が必要な、デリケートな手続きです。手続きが複雑で何から手をつけていいか分からない、相続人間で意見がまとまらない、トラブルになりそうで不安だ、といったお悩みをお持ちではありませんか?
私たち行政書士は、相続手続きの専門家として、以下のようなサポートを提供できます。
- 相続関係の調査・確定: 戸籍謄本などの収集、相続関係説明図の作成
- 相続財産の調査・確定: 財産目録の作成サポート
- 遺産分割協議のサポート: 話し合いへの同席(※代理交渉はできません)、アドバイス
- 遺産分割協議書の作成: 法的に有効で、後々のトラブルを防ぐ明確な協議書の作成
- 各種名義変更手続きのサポート: 金融機関等の手続きに関するアドバイス
- 他の専門家との連携: 必要に応じて、弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士など、信頼できる専門家をご紹介・連携します。
行政書士なかじま法務事務所は、東京都台東区を拠点に、相続手続き、遺言書作成サポートを専門としております。豊富な経験と実績に基づき、お客様一人ひとりの状況に合わせた丁寧なサポートを心がけています。
初回のご相談は無料です。遺産分割に関するお悩みやご不安がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。お客様の相続手続きが円満に進み、ご家族の未来への安心を築くお手伝いができれば幸いです。
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