お役立ちコラム

一般社団法人による診療所開設|非営利性の審査と令和8年の制度改正

一般社団法人による診療所開設は慎重な検討が必要です

一般社団法人を開設者として、診療所やクリニックを開設することは制度上可能です。

しかし、一般社団法人を設立すれば、そのまま診療所を開設できるわけではありません。

一般社団法人による診療所開設では、法人の設立手続きとは別に、開設予定地を管轄する保健所等との事前相談を行い、都道府県知事等から診療所開設許可を受ける必要があります。

特に、令和8年7月31日に厚生労働省から通知が発出され、一般社団法人が開設する医療機関について、非営利性を確認する際の具体的なポイントが示されました。

さらに、一般社団法人が開設する医療機関には、事業報告書や貸借対照表、損益計算書などの届出も求められることになっています。

そのため、一般社団法人による診療所開設は、単に「医療法人より早く法人を設立できる」という理由だけで選択するのではなく、法人の目的、社員・役員構成、資金の流れ、関連会社との取引、開設後の運営まで含めて慎重に検討する必要があります。

この記事では、一般社団法人による診療所開設について、令和8年7月31日通知を踏まえて解説します。


一般社団法人でも診療所を開設できます

診療所の開設者は、医師個人や医療法人に限られているわけではありません。

一般社団法人も、所定の開設許可を受けることにより、診療所の開設者となることができます。

ただし、一般社団法人は、登記によって法人として成立しただけでは診療所を開設できません。

法人による診療所開設では、医療法に基づく開設許可が必要です。

開設許可申請では、施設や設備の基準だけでなく、開設者である一般社団法人が非営利性を確保しているかについても確認されます。

申請先によっては、正式な開設許可申請の前に、法人の定款、役員構成、資金計画、事業計画などを提出し、事前相談を行うことが求められます。


令和8年7月31日の厚生労働省通知とは

令和8年7月31日、厚生労働省から次の通知が発出されました。

「一般社団法人が開設する医療機関の非営利性の確認のポイント及び医療機関を開設する一般社団法人が届け出なければならない計算書類等の様式等」

この通知では、公益社団法人を除く一般社団法人が病院または診療所を開設する場合について、行政庁が非営利性を確認する際の具体的なポイントが整理されています。

一般社団法人による診療所開設が禁止されたわけではありません。

しかし、法人の形式だけではなく、実際の事業目的、役員構成、契約関係、資金の流れなどを踏まえて、医療機関としての非営利性が実質的に確保されているかが確認されます。

新たに一般社団法人で診療所を開設する場合は、法人設立や物件契約を進める前に、この確認基準を踏まえて計画を組み立てることが重要です。

法人の関係者構成、関連会社との契約、資金の流れなどが複雑で、一般的な手引だけでは整理できない場合は、複雑な行政手続の制度調査・検討サポートとして、関係資料や行政機関の取扱いを個別に調査します。


一般社団法人の非営利性を確認する5つのポイント

厚生労働省の通知では、一般社団法人が開設する医療機関の非営利性について、主に次の5つの観点から確認することとされています。

1.利益の追求を目的としていないこと

一般社団法人の事業目的が、利益の追求を目的とするものになっていないことが確認されます。

定款の目的には、地域に必要な医療を提供することや、公衆衛生の向上に寄与することなど、医療機関を開設する目的を明確に記載する必要があります。

一方で、物品販売、賃貸、事業の企画・請負・代理など、営利を追求する事業が目的に含まれている場合には、その内容や医療事業との関係について慎重な確認が必要です。

また、診療所の管理者は、原則として一般社団法人の理事に就任することが求められます。

2.利益を構成員等へ分配しないこと

一般社団法人は、社員に剰余金を分配することができません。

ただし、定款に剰余金の分配を禁止する規定があれば、それだけで非営利性が認められるわけではありません。

例えば、法人の役員、社員、設立者、関連会社などに対して、

  • 相場より著しく高い賃料を支払う
  • 医療機器等を不当に高い価格で借りる
  • 過大な業務委託料や管理料を支払う
  • 診療所の売上に連動した賃料を支払う
  • 実態のない業務に報酬を支払う

といった取引がある場合には、実質的な利益の分配ではないか確認される可能性があります。

ここでいう「非営利」とは、利益を出してはいけないという意味ではありません。

診療所の運営によって生じた利益を社員等へ分配したり、関連会社との不適切な取引を通じて外部へ移転したりしないことが重要です。

3.解散時の残余財産の帰属先が適切であること

一般社団法人が解散した場合に残った財産を、社員や設立者などへ自由に分配できる内容になっていないことも確認されます。

定款では、残余財産の帰属先を国、地方公共団体、一定の医療法人や公益的な法人などに限定することが求められます。

残余財産の帰属に関する規定は、定款作成時から適切に整備しておく必要があります。

4.営利法人との利益相反がないこと

一般社団法人の役員等と、診療所の開設・運営に関係する営利法人との関係も確認されます。

原則として、一般社団法人の役員が、診療所の開設や運営に利害関係を持つ営利法人の役員または従業員を兼ねることは、慎重な検討が必要です。

例えば、診療所の建物を賃貸する会社、医療機器を貸し出す会社、経営管理業務を受託する会社などと、一般社団法人の役員や社員が密接な関係にある場合には、取引条件の妥当性が確認される可能性があります。

法人設立前に、社員、理事、監事、診療所管理者、関連会社などの関係を整理しておくことが重要です。

5.社員の議決権が適切であること

一般社団法人では、原則として社員1人につき1個の議決権を持つことが求められます。

特定の社員だけが多数の議決権を持つなど、社員間で不合理な差を設ける定款になっている場合には、非営利性や法人運営の適正性について問題となる可能性があります。

社員構成と議決権の設計は、法人設立後の運営にも大きく影響するため、形式的に決めるのではなく、将来の意思決定も見据えて検討する必要があります。


計算書類等の届出が必要になります

令和8年4月1日から、公益社団法人を除く一般社団法人が病院または診療所を開設している場合には、毎会計年度終了後、一定の書類を都道府県知事等へ届け出る制度が設けられています。

主に対象となる書類は次のとおりです。

  • 事業報告書
  • 貸借対照表
  • 損益計算書

届出期限は、原則として毎会計年度終了後3か月以内です。

また、非営利性の確認に必要な場合には、

  • 監査報告書
  • 財産目録
  • 純資産変動計算書
  • 関係事業者との取引状況に関する資料

などの提出を求められる可能性があります。

このため、一般社団法人による診療所は、開設許可を受けた後も、毎年の会計処理や行政庁への報告を適切に行う必要があります。

一般社団法人を設立して診療所を開設する場合には、開設時の費用だけでなく、開設後の会計・報告に関する継続的な負担も考慮しておきましょう。


新規開設と既存の診療所で取扱いが異なります

令和8年7月31日の通知後に、新たに一般社団法人が診療所を開設する場合には、開設許可申請の段階から、通知で示された非営利性の確認ポイントに基づく審査が行われます。

一方、すでに一般社団法人が開設している医療機関についても、令和9年度以降、計算書類等の届出、変更手続き、立入検査などの機会に非営利性が確認されることになります。

既存の診療所についても、

  • 現在の定款が確認基準に対応しているか
  • 社員・役員構成に問題がないか
  • 関連会社との契約が適切か
  • 賃料や業務委託料が適正か
  • 計算書類等を期限内に提出できるか

などを確認しておくことが大切です。


開設準備は法人設立や物件契約の前から始めましょう

一般社団法人による診療所開設では、手続きの順序が非常に重要です。

法人や診療所の計画に問題がある状態で準備を進めると、定款の変更、役員構成の見直し、契約の変更などが必要になる可能性があります。

特に、次の事項は早めに確認することをおすすめします。

  • 一般社団法人を選択する理由
  • 診療所の診療内容と開設予定日
  • 法人の社員・理事・監事の構成
  • 診療所管理者と法人役員との関係
  • 法人の定款および事業目的
  • 開設資金の調達方法
  • 建物の所有者や賃貸人との関係
  • 医療機器等の購入・賃貸契約
  • 関連会社への業務委託の有無
  • 賃料、委託料、役員報酬等の金額
  • 開設後の会計・報告体制

物件の賃貸借契約や高額な設備契約を締結してから、診療所開設許可の見通しに問題があることが判明すると、開設予定が大きく遅れる可能性があります。

一般社団法人の設立や物件契約を行う前に、開設予定地を管轄する保健所等へ相談することが重要です。


一般社団法人は医療法人の代わりになるとは限りません

一般社団法人は、医療法人とは異なる制度です。

一般社団法人自体は登記によって設立できますが、診療所を開設するためには別途開設許可が必要であり、非営利性についても実質的な確認を受けます。

したがって、

「医療法人設立認可よりも簡単そうだから」

「非医師を代表者にできるから」

「早く法人を作れるから」

という理由だけで一般社団法人を選択することはおすすめできません。

一般社団法人、医療法人、医師個人のどの形態が適しているかは、

  • 法人化の目的
  • 診療所の運営体制
  • 将来の分院展開
  • 事業承継
  • 出資・資金調達の方法
  • 社員・役員の構成
  • 関連事業の有無
  • 開設後の管理負担

などを踏まえて判断する必要があります。

法人設立の早さと、診療所を開設できるまでの早さは同じではありません。


非営利性を維持できない場合のリスク

開設許可申請の段階で非営利性が確保されていないと判断された場合には、診療所の開設許可を受けられない可能性があります。

また、開設後に非営利性が維持されていないことが判明した場合には、行政庁から改善を求められたり、業務停止等の対象になったりする可能性があります。

さらに、必要な改善が行われない場合には、開設許可の取消しや閉鎖命令につながることも考えられます。

一般社団法人による診療所開設では、開設許可を取得することだけではなく、開設後も継続して非営利性を維持できる法人運営体制を整えることが重要です。


行政書士なかじま法務事務所のサポート

行政書士なかじま法務事務所では、一般社団法人による診療所開設について、次のようなサポートを行っています。

  • 開設予定地を管轄する保健所等への事前相談
  • 一般社団法人による開設の可否・論点整理
  • 社員・役員・診療所管理者の構成確認
  • 定款・事業計画・資金計画等の確認
  • 診療所開設許可申請
  • 診療所開設届等の作成・提出
  • 厚生局への保険医療機関指定申請
  • 施設基準届に関する手続き
  • 開設後の変更届や計算書類等の届出

一般社団法人による診療所開設は、申請先の自治体や具体的な事業計画によって必要な協議・提出書類が異なります。

当事務所にご依頼いただいた場合でも、診療所開設許可を保証するものではありませんが、計画段階から確認事項を整理し、行政庁との事前相談を踏まえて手続きを進めます。

東京都を中心に、千葉県・埼玉県・神奈川県での診療所開設をご検討の方は、できるだけ早い段階でご相談ください。

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参考資料

※制度や申請先の運用は変更されることがあります。実際に手続きを行う際は、開設予定地を管轄する行政庁の最新の案内をご確認ください。

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