お役立ちコラム
12.142023
医療法人設立 とは?仕組み・種類・手続きの流れを分かりやすく解説

クリニックや診療所を経営されている医師・歯科医師の先生方の中には、「医療法人化」を検討されたことがある方も多いのではないでしょうか。「節税効果があるらしい」「事業承継に有利と聞いた」など、メリットを耳にする一方で、その仕組みや手続きは複雑で分かりにくいと感じていらっしゃるかもしれません。 この記事では、医療法人とは何か、その基本的な仕組み、種類、設立手続きの流れ、運営上の注意点などを、行政書士が分かりやすく解説します。医療法人化を検討する上での基礎知識として、ぜひご一読ください。
1. 医療法人とは?その定義と役割
まず、「医療法人」がどのようなものか、法律上の定義から見ていきましょう。医療法には以下のように定められています。
(医療法人) 第三十九条 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。 2 前項の規定による法人は、医療法人と称する。
(医療法人の責務) 第四十条の二 医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。
(設立認可) 第四十四条 医療法人は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事(以下この章(第三項及び第六十六条の三を除く。)において単に「都道府県知事」という。)の認可を受けなければ、これを設立することができない。
簡単にまとめると、医療法人とは、病院や診療所などを開設・運営するために、医療法の規定に基づき設立される法人のことです。個人事業主としてではなく、法人格を持つことで、より安定した経営基盤を築き、地域医療への貢献を果たすことが期待されています。設立には都道府県知事の認可が必要であり、設立後も都道府県の監督下に置かれることになります。
2. 医療法人設立の手続きと認可スケジュール
(1) 都道府県への認可申請が必要 医療法人を設立するには、主たる事務所(クリニックなど)の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受ける必要があります。認可申請の窓口や手続きの詳細は、各都道府県によって異なります。
(2) 認可申請のスケジュール例(東京都の場合) 認可申請の受付時期は、都道府県によって年1回や複数回など様々です。ここでは例として、東京都の一般的なスケジュール(年2回)をご紹介します。
- パターン1
- 8月下旬~9月上旬:仮受付
- 翌年1月下旬~2月初旬:医療審議会による審議
- 2月中旬~下旬:認可証交付
- パターン2
- 2月下旬~3月上旬:仮受付
- 4月下旬~8月初旬:医療審議会による審議
- 8月中旬~8月下旬:認可証交付
※上記はあくまで例年のスケジュールであり、変更される可能性もあります。必ずご自身のクリニックがある都道府県の担当部署にご確認ください。
(3) 申請時の注意点 「仮受付」という名称ですが、この段階でほぼ完成形の申請書類を提出する必要があります。書類に不備があったり、設立計画の内容(人員、資金計画、運営方針など)に問題があると判断されたりした場合、申請が受理されない、あるいは認可が得られないケースもあります。事前の準備と専門家への相談が重要です。
3. 社団医療法人の種類:「持分あり」と「持分なし」の違い
医療法人には大きく分けて「社団医療法人」と「財団医療法人」がありますが、多く設立されているのは「社団医療法人」です。今回は社団医療法人について解説します。
社団医療法人には、設立時期によって「持分のある医療法人」と「持分のない医療法人」の2種類が存在します。
- 持分のある医療法人: 平成19年(2007年)3月31日以前に設立された医療法人。設立時の出資者(社員)が、その出資額に応じて法人の純資産に対する「持分(財産権)」を持ちます。退社時や解散時に、持分に応じた払戻し請求権がありました。
- 持分のない医療法人: 平成19年(2007年)4月1日以降に設立される医療法人。出資持分の概念がなく、社員は退社時や解散時に払戻しを受ける権利がありません。法人の財産は、解散時には国や地方公共団体、他の医療法人等に帰属します。
現在は、新規で設立できるのは「持分のない医療法人」のみです。
「持分のない医療法人」は、解散時に出資が戻ってこないという側面がありますが、相続税の問題が発生しないため、事業承継がスムーズに進めやすいというメリットがあります。
医療法人化を検討する際は、この「持分なし」の特性を理解し、ご自身の状況(将来の事業承継の予定など)を踏まえて、個人事業主のままか、法人化するかのメリット・デメリットを総合的に判断することが重要です。
4. 医療法人の組織体制:社員総会・理事会・監事の役割
医療法人の運営には、「社員」「役員(理事・監事)」といった役職者が関わります。それぞれの役割を理解しておきましょう。
(1) 社員とは?最高意思決定機関「社員総会」 一般的に「社員」というと従業員をイメージしますが、医療法人における「社員」は全く異なります。医療法人の「社員」とは、法人の最高意思決定機関である「社員総会」の構成員を指します。株式会社でいう株主のような立場に近いですが、出資の有無にかかわらず、社員は一人一票の議決権を持ちます。 社員総会は、法人の定款変更、予算・決算の承認、役員の選任・解任など、法人の基本的な運営方針や重要事項を決定する権限を持ちます。
(2) 役員(理事・監事)の選任と理事長の役割
- 理事: 社員総会で選任され、医療法人の業務執行を担当します。理事の中から互選によって理事長が選ばれます。理事長は法人を代表し、業務を統括します。(原則として医師または歯科医師が就任)
- 監事: 社員総会で選任され、理事の業務執行状況や法人の財産状況を監査する役割を担います。
理事や監事の選任・解任は社員総会の決議事項であるため、実質的には社員(社員総会)が法人の経営の根幹を握っていると言えます。
(3) 社員の重要性 誰が「社員」になるかは、医療法人の経営方針や将来の方向性を左右する非常に重要な要素です。設立時や事業承継時には、社員構成を慎重に検討する必要があります。
5. 医療法人の「非営利性」とは?利益を出しても良い?
「医療法人は非営利法人だから、利益を出してはいけないのでは?」「物販などはできないのでは?」といった疑問を耳にすることがあります。これはよくある誤解です。
(1) 「非営利」=利益分配ができないこと 医療法人の「非営利性」とは、事業によって利益を上げてはいけないという意味ではありません。得た利益を、社員や役員などの構成員に配当(分配)することが禁止されているという意味です。 株式会社であれば、利益が出れば株主に配当金を支払うことができますが、医療法人ではそれができません。得た利益は、医療提供体制の充実、設備の更新、職員の給与、将来のための内部留保などに充てる必要があります。
(2) 付随業務としての物販は可能 医療法人は、その本来業務(医療の提供)に支障のない範囲で、定款に定めれば「附随業務」を行うことができます。 例えば、以下のような業務は附随業務として認められる場合があります。
- 病院内の売店(入院患者やその家族、職員向け)
- 患者やその家族に対する、療養上有益なサプリメントや衛生材料などの販売
- 職員のための福利厚生施設(食堂など)の運営
ただし、あくまで医療提供の一環としての位置づけであり、収益事業を主目的とすることはできません。
まとめ
今回は、医療法人の基本的な仕組みについて解説しました。
- 医療法人は、病院や診療所を開設・運営するための法人格。
- 設立には都道府県知事の認可が必要。
- 現在は「持分のない社団医療法人」のみ設立可能。
- 「社員」が最高意思決定機関である社員総会を構成し、経営の根幹を担う。
- 「非営利性」とは利益分配ができないことであり、利益を上げること自体は問題ない。
医療法人化には、税制上のメリットや社会的信用の向上、事業承継の円滑化などの利点がある一方、設立・運営の手続きが煩雑になる、自由な利益処分ができないなどの側面もあります。
ご自身のクリニックの状況や将来の展望に合わせて、最適な選択をすることが重要です。
医療法人設立に関するご相談は当事務所へ
医療法人の設立手続きは複雑で、多くの書類作成や行政庁との折衝が必要となります。 当事務所では、医療法人設立に関する豊富な経験と知識に基づき、設立認可申請のサポートから設立後の運営に関するご相談まで、トータルでサポートいたします。
「自分のクリニックは法人化すべきか?」「手続きの流れを詳しく知りたい」「設立のメリット・デメリットを具体的に聞きたい」など、どんなことでもお気軽にご相談ください。
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