お役立ちコラム
5.132025
開業医が 医療法人化 するメリット・デメリットを徹底解説

「クリニックの利益が増えてきたが、税金も高くなってきた…」 「事業承継のことも考え始めたいが、何から手をつければいいのだろう…」 「医療法人化という言葉は聞くけれど、具体的にどんなメリットがあるのだろう?」
開業医としてご活躍の先生方の中には、このようなお悩みや疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。医療法人化は、節税効果や事業承継の円滑化など、多くのメリットが期待できる一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。
本記事では、行政書士の視点から、開業医の先生が医療法人化を検討する際に知っておくべきメリット・デメリット、そして判断のポイントを分かりやすく解説します。
医療法人化とは? ~個人開業医との違い~
まず、医療法人化とは何か、個人開業医とどう違うのかを簡単に押さえておきましょう。
- 個人開業医: 医師個人が事業主としてクリニックを運営する形態です。所得は事業所得となり、所得税が課税されます。
- 医療法人: 医療法に基づいて設立される法人格を持つ団体です。院長個人とは別人格となり、法人がクリニックを運営します。法人には法人税が、役員である医師には役員報酬として給与所得控除後の所得に所得税が課税されます。
医療法人には、主に「社団医療法人」と「財団医療法人」がありますが、多くの場合、社員が集まって設立する「社団医療法人(持分あり・持分なし)」が選択されます。(※現在、新規設立は「持分のない医療法人」のみです。)
開業医が医療法人化する【7つのメリット】
医療法人化には、主に以下のようなメリットがあります。
1. 税負担の軽減(節税効果)
最も大きなメリットの一つが節税効果です。
- 所得税と法人税の税率差: 個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が高くなります(住民税と合わせ最高55%)。一方、法人税は一定の税率(法人住民税・事業税等を含めても概ね30%台前半)であるため、所得が一定額を超えると法人化した方が税負担を抑えられる可能性があります。
- 役員報酬による給与所得控除: 院長や家族従業員に役員報酬を支払うことで、給与所得控除が適用され、課税所得を圧縮できます。
- 退職金の支給: 役員退職金は、通常の給与所得に比べて税制上優遇されており、将来の退職金準備として有効です。
- 生命保険料の損金算入: 法人契約の生命保険を活用することで、保険料の一部または全額を損金に算入しつつ、退職金準備や保障を確保できる場合があります。
2. 社会的信用の向上
法人格を持つことで、個人事業主よりも社会的な信用度が高まる傾向があります。
- 金融機関からの融資: 事業拡大のための資金調達が有利になることがあります。
- 人材採用: 求職者に対して安定した経営基盤をアピールでき、優秀な人材を確保しやすくなる可能性があります。
- 取引先との関係: より大きな規模の取引や、公的な事業への参加がしやすくなることもあります。
3. 事業承継の円滑化
個人開業の場合、院長の死亡や引退はそのまま廃業につながりやすいですが、医療法人は院長個人とは別人格であるため、事業承継が比較的スムーズに行えます。
- 出資持分の評価と相続: (持分あり医療法人の場合)出資持分を相続・贈与することで、クリニックの経営権を引き継ぐことができます。ただし、出資持分の評価額が高額になるケースもあり、対策が必要です。
- 理事長の変更: 新たな理事長を選任することで、スムーズに経営を引き継ぐことができます。
4. 複数の診療所や介護事業の展開が可能に
個人開業医は原則として一つの診療所しか開設できませんが、医療法人化することで、複数の診療所や介護老人保健施設、訪問看護ステーションなどの介護事業を展開することが可能になります(定款に記載し、認可を受ける必要があります)。
5. 欠損金の繰越控除期間の延長
青色申告をしている医療法人の場合、事業年度に生じた欠損金(赤字)を翌事業年度以降10年間(個人事業の場合は3年間)繰り越して、将来の黒字と相殺することができます。
6. 役員への退職金準備が明確にできる
役員退職慰労金規程を整備することで、院長やその家族である役員に対して、退職時に退職金を支給することができ、これは損金として扱われます。老後の生活資金準備として有効な手段です。
7. 社会保険への加入による福利厚生の充実
医療法人化すると、院長や常勤の役員・従業員は健康保険・厚生年金保険への加入が義務付けられます。これにより、従業員の福利厚生が手厚くなり、人材確保や定着にも繋がります。
開業医が医療法人化する【5つのデメリットと注意点】
多くのメリットがある一方で、デメリットや注意点も理解しておく必要があります。
1. 設立・運営の手間とコスト
- 設立手続きの煩雑さ: 医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要であり、定款作成、設立総会、関係各所への届出など、多くの書類作成と煩雑な手続きが伴います。行政書士などの専門家のサポートが不可欠となる場合が多いです。
- 運営コストの増加: 役員変更登記(2年に一度)、毎年の資産登記、都道府県への事業報告書等の提出など、個人事業にはない事務手続きやそれに伴う費用が発生します。
2. 事務作業の増加と会計処理の複雑化
社会保険への加入手続きや毎月の保険料納付、法人としての経理処理や税務申告など、事務作業が増加します。会計処理も個人事業より複雑になるため、税理士への依頼が必要となるケースがほとんどです。
3. 資金の使途制限と剰余金の配当禁止
- 剰余金の配当禁止: 医療法人は非営利性が求められるため、株式会社のように利益を配当金として社員に分配することはできません。役員報酬として受け取る形になります。
- 資金の自由な移動の制限: 法人の財産と個人の財産は明確に区別されるため、院長が法人の資金を個人的な目的で自由に使うことはできません。
4. 解散・事業承継時の制約
- 解散時の残余財産の帰属: 持分のない医療法人が解散した場合、残余財産は国や地方公共団体、他の医療法人などに帰属し、設立者個人には戻りません。
- 出資持分の評価(持分ありの場合): 事業承継や相続の際、出資持分の評価額が想定以上に高額になり、後継者の負担が大きくなる可能性があります。
5. 交際費の損金算入限度額
個人事業の場合、事業に関連する交際費は必要経費として認められやすいですが、法人の場合は損金として算入できる金額に一定の制限があります。
医療法人化を検討すべきタイミングは?
一般的に、以下のようなタイミングで医療法人化を検討するケースが多いです。
- 所得が一定額を超えたとき: 個人の所得税・住民税の負担が、法人税・法人住民税等の負担を大きく上回るようになった場合(一般的に課税所得が1,500万円~1,800万円程度が一つの目安と言われますが、家族構成や控除額などにより異なります)。
- 事業承継を具体的に考え始めたとき: 親族や第三者へのスムーズな承継を準備したい場合。
- 分院展開や介護事業への進出を計画しているとき: 事業規模の拡大を目指す場合。
- 社会的信用を高め、より安定した経営を目指したいとき。
医療法人化の手続きの概要と行政書士の役割
医療法人化の手続きは専門的な知識を要し、時間もかかります。大まかな流れは以下の通りです。
- 設立準備: 設立者・役員の決定、定款案・事業計画書・予算書などの作成、設立総会の開催。
- 設立認可申請: 都道府県知事(または政令市・中核市の市長)に対して設立認可申請書を提出。審査には数ヶ月を要します。
- 設立登記: 認可後、法務局にて設立の登記を行います。
- 開設許可申請・届出: 保健所に対して診療所開設許可申請(法人の場合)、厚生局に対して保険医療機関指定申請などを行います。
- 税務署等への届出: 法人設立届、青色申告承認申請書などを提出します。
これらの複雑な手続きにおいて、行政書士は、定款作成から各種申請書類の作成・提出代行、関係各所との調整など、医療法人設立をトータルでサポートします。煩雑な手続きを専門家に任せることで、先生方は日々の診療に集中しつつ、スムーズな法人化を実現できます。
まとめ:メリット・デメリットを総合的に比較し、専門家へ相談を
医療法人化は、節税や事業承継、事業拡大において大きなメリットをもたらす可能性がある一方で、運営上の手間やコスト、資金使途の制約などのデメリットも存在します。
ご自身のクリニックの現状、将来の展望、そして何よりも「何のために法人化するのか」という目的を明確にした上で、メリットとデメリットを総合的に比較検討することが重要です。
「うちのクリニックも法人化した方がいいのだろうか?」 「具体的な手続きや費用について詳しく知りたい」
そのような場合は、ぜひ一度、医療法人設立に詳しい行政書士にご相談ください。個別の状況を丁寧にヒアリングし、最適なアドバイスとサポートをご提供いたします。後悔のない選択をするために、専門家の知識をぜひご活用ください。
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